Signature Designer of the Month | vol.5 | Nazar Sigaher

ナザール・シガハー

Signature Designer = LOGAN atelierのトレードマークとして、また一人の人間としても尊敬できるデザイナー個人をピックアップして皆さんにご紹介していく特集です。デザイナー/作り手の人となりを知り、普段お店には並ぶことのないデザイン細部に至るまでの想いを理解し、「ものづくり」への愛を感じて頂く事で、皆さんが少しでも彼らのデザインを長く愛用するきっかけの一助となるように始めた企画です。

Vol.5でご紹介するのは、トルコで140年以上も続く老舗時計メーカーMeyer Objectsの『Nazar Sigaher(ナザール・シガハー)』さんです。個人オフィスも構えながら複数のデザインブランドへデザインを提供。また講師として後人の指導にもあたる大変紳士なお人柄。アジアとヨーロッパが交わるエキゾチックな国であるトルコへの尊敬と深い愛を感じさせてくれるインタビューでした。

2019年に国際的なデザインコンペを受賞したFrame Clockの斬新なアプローチはこれまでの固定概念を覆すに十分なものとなりました。現在は新作の時計の製造プロセスへと既に進行しているとのことで、今後もますます目が離せません。




——本日はMeyer Objectsから発表されたFrame Clockが2019年のGerman Design Awardを受賞した、デザイナーのNazarさんにお話しを伺います。まず簡単にご自身の自己紹介をお願い出来ますか。

イスタンブール生まれで、現在もこの街に住んでいます。トルコで最も権威あるアートスクールであるMimar Sinan Fine Arts Universityでインテリアデザインについて学び、最近では空間デザインにはじまり、家具や製品設計にも取り組んでいます。また大学で非常勤講師としても後人の指導にあたらせてもらっています。もう6年になりますでしょうか。




——トルコに生まれて、トルコに育ち、そしてトルコに還元されている訳ですね。トルコという国への愛を感じます。Nazarさんにとってトルコとはどのような国なのでしょうか?

▲ 2万枚もの青い装飾タイルや260ものステンドグラスで彩られるブルーモスク、100機ほどの気球が空に舞い上がるカッパドキアトルコ、ギリシア神話に登場する都市として有名なトロイ遺跡、パムッカレやギョレメ屋外博物館など、トルコには日本でも人気の高い観光名所がずらり。

トルコは、ヨーロッパとアジアの中間に位置しており、世界的にも歴史の古い土地に建国されました。この頃から既に、非常に豊かな文化と多様性を持ちあわせています。私が住んでいるイスタンブールは、それこそ伝統的なトルコのライフスタイルと、そして近代的なライフスタイルの両側面を垣間見ることができる都市です。




——普段の週末はどういったことで息抜きされていますか。

現代美術のイベントや展示会へ訪れる事がおおいでしょうか。それとライブ音楽のパフォーマンスへ行ったり、映画を見ることも大好きです。普段オフィスに籠ることが多々ありますので、空き時間には出来る限りウォーキングや友人と運動をするようにしています。




——Nazarさんがデザイナーを志したきっかけを教えてください。

設計は一般的に意図的なアクションになります。これは、当然ながら以前よりも物事をより良くするために行われます。より機能的に。より美しく。またはその両方を提供するために。人々の生活に貢献することのできる職業なんて素晴らしいではないですか。デザイナーはそれが出来る職業だと思います。


——特に工業デザイナーなどは顕著な例ですが、世の中に変化を加えることに一役買っていますものね。今回の”Frame Clock”然り、アプローチが斬新なのですが、どなたか影響を受けたデザイナーさんがいらっしゃれば教えて頂けますか。

コンスタンチン・グルチッチ、マーク・ニューソン、ブールルール・ブラザーズあたりはどことなく影響を受けてきているかもしれません。また最近ですとベンジャミン・ヒューバートによるデザインが本当に好きです。


——最近は主にどういった活動をされているのですか。

約7年前、パートナーと一緒にDaedalusという、家具・インテリアのブランドを立ち上げました。住宅、レストラン、ホテル、集合エリア、展示スタンド、ナイトクラブ、スポーツ施設など、インテリア建築の観点から幅広いインテリアデザインを提案させていただいています。あとは自身のブランドとは別に、Meyer Objectsのようにデザインを提供しているブランドも多数あります。




——なるほど。是非今度Daedalusのお話も別途伺わせてください。デザインされるうえでのこだわりであったり、大切にしているものを教えてください。

結果よりもプロセスに関心があります。正しいプロセスを抑えることで、あなたを正しい結論へと導いてくれます。自分の理想に向かって努力する人々は私が最も尊敬するものです。




——日本の皆さんにここだけは見て欲しい、知って欲しいという部分はありますか。

Meyer Objects向けに設計した「Frame Clock」は、時を刻む機械仕掛けの彫刻です。時々刻々と変化するこの時計に決まった形状はありません。常に違った表情をあなたにみせてくれることでしょう。 私は“時を示す方法”を根本から見直し、違いを作り出したかったのです。物事を俯瞰してみることにより、その日常的なアイテムに新たな解釈を与えたいと日々試行錯誤しています。

Twist Shelf Delta Clock ▲ 左)Nazarさんのオフィス。右)Frame Clockの製造現場。細かなパーツを一つ一つ手作業で組み立てていくクラフトマン。




——Nazarさんのデザインアプローチはどのようなものなのでしょうか?

いかに優れた機能を有していたとしても、美のないデザインを好む人はいません。その機能に加えて、デザインはアプローチにおいてそれ自体と一貫した美しさを提供する必要があるものと考えています。




——デザインモットーを教えてください。

"think much, design less(十分に考え、無駄を省く)"

私たちは日々多くのデザインに埋もれて生活しています。新たに創りあげられるデザインは、適性があり、且つ違いを明確に打ち出していく必要があります。




——Nazarさんだからこその説得力がありますね。この質問は毎回させて頂いているのですが、トルコらしいデザインというのはあるのでしょうか?もしあれば教えてください。

例えば、建築やジュエリーデザインといった特定の領域においてはトルコデザインの伝統的なコードについて話すことができます。ただ一方で、家具やプロダクトデザインにおいて、その側面を集約することは難しいですね。強いて言えばですが、地中海よりのデザインとは言えるのではないでしょうか。

Frame Clock ▲ Frame Clockが刻む時。毎分ごとに違った表情で魅せてくれます *クリックで製品ページへ




——次はどんなアイデアが生まれてくるのかNazarさんの動向が気になってくるところではあります。現在動いているプロジェクトについて可能な限りで構いませんので特別に教えて頂けませんでしょうか。

Meyer Objects向け新たに2つの時計をデザイン設計しました。現在は製品開発プロセスを待っているところですので直に皆さんにもご紹介出来るかと思います。




——やはり時計ですね!我々の想像の上をいくデザイン。楽しみに待たせていただきますね。それでは最後になりましたが、日本の皆さんに一言ありましたらお願いします。

伝統的なライフスタイルと現代を共存させる深い文化。デザインの世界に大きな貢献をしており、日本には洗練された嗜好の消費者が大勢いることを存じ上げています。この場に、こうして取り上げて頂いていることを非常に嬉しく思います。






写真 Nazar Sigaher
プロダクトデザイナー
自身のスタジオでは空間・インテリア・家具デザインも行う一方で、各メーカーにコミッションとしてデザインも提供。
Meyer Objectsとしては、Vintage ClockやModern Clockなど名工がつくりあげる時計が人気。

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