Signature Designer of the Month | vol.6 | Nils Chartier

ニルス・シャルティエ

Signature Designer = LOGAN atelierのトレードマークとして、また一人の人間としても尊敬できるデザイナー個人をピックアップして皆さんにご紹介していく特集です。デザイナー/作り手の人となりを知り、普段お店には並ぶことのないデザイン細部に至るまでの想いを理解し、「ものづくり」への愛を感じて頂く事で、皆さんが少しでも彼らのデザインを長く愛用するきっかけの一助となるように始めた企画です。

vol.6では、なにかと最近LOGAN atelierでご紹介させていただいているフランス生まれ、カナダ在住のデザイナー『Nils Chartier(ニルス・シャルティエ)』さんです。そのブランド名の由来となった北欧にも所縁を持ち、北欧的な感性から生み出される長く飽きのこない無駄を省いたシンプルなデザインながらもしっかりとした機能性を有するエプロン。そしてハンドクラフトによるしっかりとした作り、また経年変化を見越した素材選定とロングライフには徹底してこだわる姿勢をお持ちです。

毎日身につけ、活動をサポートするものだからこそ、納得のいくものを。
使い込まれてできる表面の艶は努力の証。十人十色の風合いがでてきます。これだけのこだわりが詰まったエプロンが誕生した背景など伺ってきました。




——Nilsさん、先日はありがとうございました。日本でお会いできて嬉しかったですよ。2週間ちょっといらっしゃいましたかね?次は私がカナダに伺いたいですね。まずは自己紹介がてら日本の皆さんご挨拶をお願い出来ますか。

こちらこそありがとうございました。ますます日本が好きになりましたね。また必ず訪れますが、カナダでも是非。笑 dahls”ブランドを創設しましたNils Chartierと言います。つい先日37歳の誕生日を京都で迎えました。 生まれはフランスのパリで、2006年にカナダのモントリオールに越してきました。この街が私をデザイナーとしても人ととしても成長させてくれましたね。ちなみにdahls”を始めるまでは小売業やホスピタリティ産業で従事していました。




——生まれ育った国というとフランスになりますが、今回はカナダについて教えてください。Nilsさんにとってカナダはどういう国なのですかね?

▲ 左上から時計回りに)なにげないサインが可愛いです / Muralでのワンシーン / ブロックを無秩序に積み上げたようなアビタ67団地。圧巻な造形美 / 北米で最も美しい寺院とも呼ばれるノートルダム大聖堂 / モントリオール植物園の一展示物 / モントリオール市街の街並み

カナダの話となると広大すぎてお伝えし切れないのですが、私の住んでいるモントリオールは2つの言語と100もの文化が共存するとてもユニークな街です。また芸術的な側面もあって、Francofoliesやジャズフェストなどの巨大な音楽フェスティバルや、画家やグラフィティアーティストがメインストリートに置かれた巨大な壁に思い思いの絵を描くMuralと呼ばれているストリートアートの祭典など、文化とデザインが街中のあらゆるところで見られます。

この街に住んでいると、なんだか田舎に越してきたような雰囲気に陥ることがあります。ここには本当に様々なカフェやレストランが立ち並んでいて自分時間をとても楽しんでいます。生活のリズムはかなりまろやかで、基本的にゆったりとした時間が流れていますよ。




——アートな側面は以前から存じ上げていましたが、意外とゆったりとした空気感なのですね。もちろん都市によって違うでしょうがモントリオールに対するイメージが少し変わりました。Nilsさんは週末は普段どういったことで息抜きされていますか。

毎朝のカフェ巡りでしょうか。スタジオへ行く前には必ずと言っていいほどにカフェで一息つきます。それと最近L'Autre Atelierの友人Julienのお陰もあり、木材を扱うようになったのですが作っているのが楽しくて、ついこの間は本革と木を組み合わせたコーヒーテーブルを自作してみました。

週末は比較的ゆっくりとすることが多いですね。読書、ランニング、友人と食事に出たりしています。ワインには目がなくて、先日訪れた東京のお店にお気に入りの醸造所のワインがあり、なんだかとても嬉しい気分に浸れました笑




——そういえば椅子もデザインされていましたよね。現時点では販売予定はないようですが今後の伸びしろが楽しみです。私も気になっていたのですがdahls”というブランド名の由来を伺っても宜しいですか。

dahls”は母の旧姓であるDahlströmの略語で、スウェーデンの名前なんですよ。Dahls”の“は厳密には¨と書きますが、Dahlströmのöの上についている点々から拾いました!




——なるほど、ブランド名の由来としては珍しいですね。ずっと”で表示していましたが、実際は¨だったのですね。。失礼しました。以前はホスピタリティ産業に従事されていたようですが、デザイナーという職種に就いたきっかけはなんだったのでしょうか。

2012年当時はレストランで働いていたのですが、私の周りの多くの友人であったり同僚が起業することが増えていったのです。弟がレストランをオープンし、兄が自転車屋を開店し、友人がアパレルショップを開いたりと、それこそ本当に変化の激しい年でした。恐らくそのころの私は嫉妬心が生まれていて自分もなにか始めたいと強く思うようになり、料理とファッションが好きだったこともあり何か自分自身の役に立つものを作り始めました。

始めは服作りなんてものは全くの無知でしたので友人や、そのまた友人の力を借りてプロトタイプを幾つも作成しました。
生地を探して、裁縫師を探して、型を作成するためにパタンナーを探して、レザークラフト職人を探して、、すべては手探りでそこから始まって、ゼロから学びました。様々なアドバイスをくれた皆には感謝してもしきれないですよ、本当に。そこから8年間、まさに私のとってのアドベンチャーでしたね!

スタジオ ダールズエプロン ▲ Nilsさんのスタジオでの風景




——なんでもそうですが現場を知っている方は強いですよね。特に機能面では現場での経験がモノを言いますよ。そのデザインという分野に踏み込むまで、もしくは踏み込んでから影響を受けた方などはいらっしゃいますか?

一番は友人や家族からの刺激が多かったです。あとはファッションからも沢山影響をもらっていますね。
幼少期に美術館やアートギャラリーなどに連れて行ってもらっていましたが、恐らくその両親のお陰もあってアートに目を向けるきっかけになったのだと思います。




——主な最近の活動を教えてください。

今はひたすらにエプロンを作り続けています。このエプロンこそが今の私の大部分を占める活動ですし、なによりもベストセラーだからです。エプロンのほかには、同じキャンバス生地をつかってトートバッグやポーチを作ったりもしていますね。端材はすべてAtelier Retaillesへと送っています。ここでは主にコットンのような天然繊維をリサイクルして紙をつくっているんですよ。


——モントリオールという都市が若手デザイナー支援をされているのか、とても個性的で素敵なコンセプトのショップが多いようですね。不要となった端材からリサイクルペーパーを作られているというのも大変興味があります。Nilsさんがデザインされるうえでのこだわりであったり、大切にしているものを教えてください。

昨今のグローバリゼーションとファッションが直面している問題に反して、お客様を教育していくことは我々のような“小規模“デザイナーの義務だと考えています。品質、環境への責任、そして利益のバランスを見つける必要があります。これを実現していくために、私はできる限り近場で素材を手配するように心掛けています。コットンはアメリカで織られ染め上げられたものをモントリオールのショップから。革材は地元のサプライヤーから入手していますが、南米産です。アメリカ産のなめしの革を買わなければならない場合、価格は3倍か4倍高くなってしまって、まともな価格で販売することはできません。

また裁縫師とスタジオは数キロしか離れていません。これは生産を全て確認し品質を担保するためにはとても重要なことです。あなたのエプロンは私とこの裁縫師の2名だけで製造しているんですよ!




——日本の皆さんにここだけは見て欲しい、知って欲しいという部分はありますか。

1点1点手作業で丁寧に裁縫していますので、大変長持ちしますよ。経年変化を楽しんでいただけるように、長く飽きのこない無駄を省いたミニマルデザインで、素材も使いこむほどに風合いが出てきます。

ディテール ダールズエプロン ▲ エプロンは全7色展開。シンプルながらもこだわりの詰まった飽きのこないデザイン。 *クリックで製品ページへ




——デザインの美学/アプローチをどのように説明されますか?

シンプルさと耐久性ですね。私がロングライフデザインにこだわっている点は皆さんにも分かって頂きたいですし、私の作ったエプロンが経年変化でどんどん味が出てくる様子を見るのが大好きです。使い込まれてできる表面の艶は皆さんの努力の証ですので十人十色。数年前にご購入いただいた皆さんに久々にお会いして使い込まれたエプロンをみるのはとても幸せな時間です。




——今はホームのフランスではなく、敢えてカナダにきて活動をされているわけですが、Nilsさんにとってカナダらしいデザインというのはあるのでしょうか?もしあれば教えてください。

カナダ全域について話すことは難しいのですが、ケベックでの最近のトレンドは、「北からの何か」を意味する「ノルディシテ」という単語です。これは北欧の生活様式を表しています。気候も似ていることから同調する部分も多いのだと思います。

デザインは勿論のこと、ファッションや食料品に至るまで。スカンジナビアンデザインのシンプルさ、地域特有の誇り、それらへの対処方法(冬の間は素材を見つけるのは容易ではないことを知っている)。




——カナダでも北欧はトレンドなのですね。万人受けするデザインが多いですからね。新しいプロジェクトも始動していたりするのでしょうか。

今年の春は、ワークジャケットをご案内したいなと考えています。是非楽しみお待ちいただけたら嬉しいです。

トートバッグ トートバッグ ▲ エプロンと同じ帆布生地で作られたトートバッグは4色展開




——それでは最後になりましたが、日本の皆さんに一言ありましたらお願いします。

距離は離れていますし文化の違いも小さくはありませんが、デザイン性やメーカーとしてのアプローチ、そして人間性など多くの類似点があるものと思います。日本の皆さんは私の製品の在り方を受け入れてくださり、デザイン性を好んでくださると信じています。
すぐにまた日本に戻って、メーカー、アーティストの皆さんにお会いして刺激を頂きたいです。






写真 Nils Chartier
エプロンクリエイター
フランス生まれ。現在はカナダのモントリオールに拠点を置く。
毎日身につけ、活動をサポートするものだからこそ、納得のいくものを。帆布、本革、真鍮と経年変化の楽しめる天然素材にこだわる。主に北米やヨーロッパ各地でファンが急増中のエプロンクリエイター。



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