Signature Product of the Month | vol.1 | 1 x 3 Table

1x3 table

Signature Product = LOGAN atelierのトレードマークとして相応しい、自信を持って皆さんにお届けできるデザイン家具をご紹介していくページ。vol.1で特集するのは、こちらブルガリア発のPRAKTRIKが発表した『1 x 3 Table』です。

ネジや固定具を一切使わずに木材同士を嵌め合わせ、自重のみでテーブル全体を支えるその注目すべき構造についての開発秘話など、さまざまなお話をデザイナーのPetar Zaharinovさんに直接伺いました。




——普段モノづくりをする上で軸にされているコンセプトはありますか?

一見すると不可能に見える構造であったり、そのメカニズムを見つけて形にしようとしています。 私がデザインした家具であったりプロダクトを皆さんが見た時に、驚いたり、感心したり、不思議がったり、そういったWOW(わぉ!)を引き起こす作品作りがしたいですね。正直まだ頭の中で描いているところまで到達出来ていないかもしれないですが、これが私の原動力になっているのは確かです。




——すごく良く分かります。一瞬出かかって、でもすぐに抑え込んでしまうその感情を作品を通して表面まで引っ張りだしたいですよね。そんなPetarさんの創造性の原点・デザインインスピレーションの源はなんでしょうか。

写真 私は幾何学全般、特に高次元幾何学と空間幾何学にインスピレーションを受けています。だからと言って私がハイレベルの数学や数式を得意にしているという訳では決してなく(笑)。むしろ実際には必要ありません。発明家になるには、純粋な科学的および分析的な考え方とは非常に異なるマインドセットが必要です。私は、複雑な計算ではなく、主に被写体で得た感覚に依存しています。


——それでは今回Signature Productに選ばれました『1 x 3 Table』について。先ずはデザインコンセプトを教えてください。

各部材が構造体として重要であるだけではなく、審美的であり尚且つ機能性を有した、実用的な機械構造を見つけるということをコンセプトに据えました。材を除くのは当然のこと、加える事でも機能性を損なってしまう自立構造であったり、一見すると不可能に見える構造が、想像力と創造的なトリックが作用すると現実となる構造など。




——なんとなく想像はついているのですが。因みに、なぜ『1 x 3 Table』という作品名なのでしょうか。

お察しの通りです(笑)。製品の名前は、その構造に由来しています。 今回の1 x 3 Tableであれば、1種の材が3本あることで構造として成り立ちます。あとは同シリーズでImpossible Collectionというものも出しているのですが、6 x 3であれば6種の材が各3本ずつ(計18本)、4 x 6であれば4種の材が各6本ずつ(計24本)といった具合になります。




——24本は凄いですね。ちょうどお話に出ましたImpossible Collectionなんかは中々に組立困難のようですが、ご親切に組立難易度というのを設定していただいているようですね。一消費者としてはとても有難いです。まさに4 x 6 は難易度Max.の5とのこと。

難易度は目安として設けています。EU圏内のお客様は敢えて最初から難易度の高いものを選ばれる方もいます。あとは1 x 3をご購入頂いたあとに、段階を踏んで更に困難なものをご購入頂いたりとゲーム感覚の方もいらっしゃいます。




——ヨーロッパの方はチャレンジ精神が旺盛ですね。

ただ勘違いしないで頂きたいのは、同梱している組立説明書を見て貰えれば組立自体はさほど難しいものではありません。もちろん最初は説明書を見ないで謎解きを楽しんでも構いませんし、早くご使用になりたいのであれば手順通りに組み立ててください。




——『1 x 3 Table』の開発秘話をお聞かせ願えますか。色・形状、こだわりポイントやどのようにしてここに至ったかなど。

異なるタイプの機械的なパズル構造についてリサーチを行っている際にこのアイデアに辿り着きました。オンライン上で連動式の立体組立パズル(海外では”Burr puzzle”)の映像を見ている時に、これだと。初めはすでに周知されている基本的な原理と構造を採用しようとしたのですが、あまりにも複雑で、製造が困難でした。当然のことながら、古典的な立体組立パズルのデザイナーは彼らが考え得る限りに複雑で解決困難な構造を探すことが命題なので。ただPRAKTRIKのブランドコンセプトは実用的(PRAKTRIK = 『practical(実用的)』+『trick(トリック)』)であることですので、本来立体組立パズルの持つ古典的な考え方とは逆の方向性でソリューションを探すことにしました。それどころかむしろ、パズル構造が持つ「魔法」を維持しつつ、できるだけシンプルにしようと。お客様からもPRAKTRIKは日本の伝統的な寄木細工からインスピレーションを受けているのかとよく聞かれます。実際のところ、寄木細工の映像を拝見したのは随分と後のことだったのですが、それでも感嘆の声を思わずあげてしまいました。特に印象的だったのは、これだけ複雑な構造であるにも関わらず全て手作業で作られていることです。 当初は邸宅や小規模のビルに先述のロジックを用いて設計する予定だったのですが、限りなくシンプルにしたこのロジックでも、規模が大きいほどにあまりに複雑で費用がかさみ過ぎました。そこでより最適化でき、よい活かせる家具に対象をシフトしたのです。 ただ素材だけはどうしても立体組立パズルを踏襲したく、材木の品質と樹種には徹底的にこだわりました。極端な話をすれば材に歪みがあっては全体の収まりに関わりますので、材の質感に関しては本当に皆さんにも感じて頂きたいところです。

▲ 大量のスケールモデル。嵌め合わせなどディテールをこだわり抜いた




——樹種の選定もそうですし、確かにPetarさんの材へのこだわりはとても感じられますね。これだけ贅沢に材を使用していてもこの価格設定は嬉しいです。製品化までのプロセスの中で、いちばん大切にした部分や特に留意した点などありますでしょうか。

全工程の中で最も重要なのは、製品自体を設計および開発するプロセスだと考えています。私は「形態は機能に従う」、つまりはデザインの省略や機能の削除、機能の交換を考えるよりも、機能を満たすためにはデザインのどの面が重要かを考えるべきという原則に従いデザインをしています。これは古典的なモダニズムによって採用されたものとは正反対のものです。まずは創案、次に連動原理、抽象的な幾何学的構造またはメカニズムを考え、次に可能なアプリケーションについてのブレーンストーミングが始まります。これは革新的で意外性のあるソリューションを生み出す可能性がとても高いアプローチだと思います。多くの発明は、別の問題の解決策を見つけようとしている間に、偶然や“誤り”によって偶発的に発生します。そのような発明パターンをシミュレートして模倣しようとする方法さえ世の中には存在するくらいです。それはシステマティック・インベンティブ・シンキング(SIT)と呼ばれていて、主にいわゆる日和見的イノベーション(既存の製品に基づくが、いくつかの可能なパターンの1つに従って変更・調整)に使用されています。ただ私のアプローチとSITの主な違いは、既存のソリューションを部分的に修正することで初期ソリューションを発明するのではなく、より直感的で非合理的なアプローチを使用して新しい構造とメカニズムを見つける点です。




——『1 x 3 Table』において、皆さんにもっとも見て/感じて貰いたい点はなにかありますか?

日本の消費者が製品の外観のシンプルさだけではなく、モノを構成するすべての要素が目的と価値を持って存在しているミニマリストの構造的アプローチを評価してくれたらとても嬉しいです。

写真 写真 ▲ 材の嵌め合わせ部分の接写と梱包の様子。写真はWalnut材を使用


——現在展開してる全Collectionの中で個人的に一番推している仕様・サイズ・樹種はありますか?もしあれば理由と併せて教えてください。

皆さんのライフスタイルに依存する部分ですので一概には言えないですね。お部屋のインテリアに合わせて樹種や色味を揃える、もしくは反対にコントラストとして用いるのはベタですが、お勧めしますね。あとは幾つかのテーブルで展開しているのですが、Mixed(複数の異なる樹種を組み合わせたオプション。詳細は各種製品ご参照ください)はテーブルの特徴的側面、つまりこの構造体を強調してくれますし、これは昔ながらの立体組立パズルにとっては典型的なアプローチになっていますのでお勧めしたいと思います。




——ありがとうございます。先ほど少し寄木細工の話は出ましたが、日本製品についてはなにか印象をお持ちでしょうか?

日本の製品はデザイン面と製造面の両方で非常に高いクオリティをお持ちですね。ありきたりな回答かもしれませんが、これは私の実際の印象です。以前、ブルガリアで事業展開をしている日本の建設会社で働かせて頂いたことがあるのですが、いかに彼らが自分たちの仕事、そして開発する製品にプライドをもってやっているか、どれほど献身的に取り組んでいるかについては大変感銘を受けました。




——ご自身の作品でなにか “ブルガリアらしさ“というのは意識されていたりしますか?

特にはありませんね。ブルガリアの伝統的な建築手法や木工技術は一般的に評価されていますが、私自身はそこからこれといって直接インスピレーションを得ていません。ブルガリアの伝統的な衣類の刺繍があるのですが、この刺繍に影響を受けたカラフルなパターンを活かしたデザインを得意とするグラフィックデザインスタジオとのコラボレーションで1つだけプロジェクトがありました。これが私たちの作品とブルガリアの伝統との唯一の繋がりでしょうか。

▲ 1 x 3は組立シンプル、収納コンパクトなので屋外イベントやケータリングで重宝されている



——それでは、最後に日本の皆さんになにか一言あればお願いします。

日本の文化と社会は私にとって非常に特別なものです。シンプルさ、謙虚さ、そして正確さを尊重される日本の皆さんは、間違いなく大きなインスピレーションの源となって世界中に良い影響を与えています。日本の皆さんがPRAKTRIKに価値を見いだしてくださるのであれば、それは私たちにとって大きな喜びと誇りです。



[製品情報]
1 x 3 TableはΦ900 H530のCoffee TableとΦ1400 H750のDining Tableの2サイズを展開。
また樹種も、Beech / Maple / Oak / Walnutの中から選択頂けます。




写真 Petar Zaharinov
プロダクトデザイナー
ブルガリア出身。ファインアート、そして建築学を学び修士号を取得。実際に建築事務所で5年間の実務経験の後にプロダクトデザイナーへと転身。友人のDelyan Spasov(写真左)と共にPRAKTRIK設立。
情熱的な2人の生み出すデザインは、無作為のようで幾何学的。自然体のようで感情的。

2011年 A’Design Award 受賞

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